数日前の夜、52ヘルツのクジラたちを読了した。久しぶりに書評を書こうと思う。
こんなに素晴らしい作品に出会ったのは初めてだ。読んでいて魂が揺さぶられ、目頭が熱くなった。僕は自分自身で人間の心を失った哀れな化け物なんじゃないかと、中二病全開ながらに本気でそう思っていたのである。
だがしかし、しかーーし、この本はそれは違うよアシュラさんと教えてくれたのだ。
冒頭は、ただのつまんない、毒親を抱えた身勝手な女性の話かあ、はーあ、あくびがでるぜと思っていた。途中でその女性が、虐待されている子供に出会うのだが、勝手にその子供に52と渾名をつけ呼ぶのである。途中、主人公の友達の美晴にも突っ込まれていたが、囚人かよ!と思った。
あと、アンさんと主税を不幸に陥れる、主人公の身勝手で馬鹿であほな快楽主義な判断、言動、行動を見てイライラした。
アンさんがかわいそうでかわいそうで、本当にかわいそうで心が揺さぶられた。主税もある種、被害者だ。主人公も自分のせいだと自覚していたが、それも何か自分に酔っている感じがして、本当に吐き気がした。この主人公マジで嫌いだ。
そのくせ、強がって、闇を抱えた不幸な女性ぶりやがって。お前はただの罪人だ。田舎に逃げるのも、それは完全に田舎を馬鹿にして下にみているからであり、心から応援できない女性であった。
女性だが野郎である。この主人公は、アンさんの心を自分勝手に踏みにじり殺したのだ。自分のことを命をかけて救ってくれた、本当に闇を抱えているアンさんを無碍にし、常に被害者ポジションをとり、巧妙に自己弁護し、友人たちも味方につけ殺した。づけづけと葬式まで行きやがって厚顔無恥もいいところだ。本当に卑劣でクソみたいな主人公だ。
この主人公は、贖罪のつもりで52を救おうと決心したみたいだが、そんなものじゃ贖罪にならない。主人公自身も自覚していたが、これはただの自己満足野郎である。
ぼくは、アンさんこそが52ヘルツのクジラだと思う。アンさんの声を僕が聞きたい、読んでいてそう思わせる作品だ。アンさんの事を思うと、目頭が熱くなった。
小説を読んでこんなに目頭が熱くなったのは初めてである。なのでアハ体験というか、そういう特別な体験をさせてもらった。この本は特別である。
52ヘルツのクジラたち是非読んでほしい。この本は僕が人間であることを証明してくれた本である。